1. 大好きだったテレビ番組



 私には、小さいころ大好きだったテレビ番組があります。日曜日の夜に1時間ほど放送されるその番組は、「匠」と呼ばれる腕利きの建築家たちがリフォームをすることによって依頼者の理想の暮らしを作りあげるというものでした。私は当時、20時30分に就寝することを親から決められていたのですが、日曜日の夜だけはこの番組を観るために少しだけ夜更かしをすることが許されていました。



2. 番組から受けた影響


 「なんということでしょう」という名台詞とともにリフォーム後の家の様子が映し出されると、私の心にはこの上ない高揚感が沸き上がってきました。そして、その番組を毎週楽しく観ているうちに、私は決意したのです。「そうだ、このワクワクを仕事にしよう」と。高校生になり人生の岐路に立たされた私は、迷わず建築学科のある大学に進学することを決めました。あるひとつの番組が、私というひとりの人間の将来に多大なる影響を及ぼしたのです。



3.建築学生として


 見事に大学の建築学科に合格した後、私は初めて本格的な設計を学ぶことになりました。子どものころから幾度となく理想の家を図面に描き起こしてきた私でしたが、図面の正しい描き方を知ったのは大学に入学してからでした。道具の使い方や線の引き方から、一歩一歩地道に学びを深めていきます。

 実は現在もまだ、私は一人前の建築家には程遠く、未熟な実力しか持っていません。しかし、やる気と熱意だけは人一倍持っています。そしてその理由は、幼いころ夢見た「匠」の存在があったからに他ならないのです。