【きっかけは、自分の部屋が欲しかった】



「そろそろ家を建て替えるか…」

ずっと待っていた父の言葉に、やったー!!と大喜びしました。

当時私たちが住んでいた家は築50年を越えていました。

昔ながらの造り、全て畳の部屋で昭和を感じる木造建築です。

しかし、祖父母も一緒の家族6人には少々手狭でした。

私たち姉妹2人は同じ部屋で毎日ケンカばかり。自分の部屋が欲しいから家を建て替えたい!と両親に不満をぶつけていました。



【建て替えのための引越し】


建て替えを決めてから1年半後、準備も整い立て替えの間に住む家も決まり、いよいよ引っ越しとなりました。

祖父母の部屋はトイレや台所が近いように、母は台所など家事の導線が良いように設計士さんと相談して納得のいくものになったようです。

新しい家を建てること、それは今の私たちの思い描く生活を実現させてくれる場所をつくるということ。

私たち姉妹同様に、父も念願の自分の部屋が持てると喜んでいます。

ワクワクした気持ちでいっぱいでした。



【空っぽになった家を見て】


荷物を運び出し、住み慣れた我が家も閑散としていました。

空っぽになった押入れ、食器棚も無くなり生活感が消えていきます。

ふと見た柱には小さい頃に祖父に書いてもらった名前と身長の印がありました。これを見るのも最後なのか。

家が無くなれば、私たち家族の思い出も消えてしまうのかも。

そう思ったら、なんだか悲しくて自然と涙が出てきました。

この家と離れたくない、そんな気持ちが湧き上がってきたのです。



【棟梁の優しい言葉】

ついに家を出る日に、新しい家を建ててくれる建築会社の方と棟梁がやって来ました。

「いい家ですね。まだまだ充分に住めますよ。ほら見て、柱がしっかりしているでしょ!昔の家はしっかりした造りなんですよね」

棟梁の言葉に、早く建て替えたいなんて言うんじゃなかったと後悔しました。

しかし続けてこうも言いました。

「でもね、時代と共に家族の生活も変わってくるでしょう。だから形を変えていっていいんですよ。新しい家も、この家のように思い出の家になるんですよ」

気持ちが前向きになりました。よし、これから始まる新しい生活を楽しもう。



【新しい家が思い出の家に】


当時新築だった我が家もついに築20年を越えました。

祖父母が他界し、私たち姉妹も家を出て今では父母2人が住んでいます。

家族みんなで考えて建てた家、あの時建て替えで良かったと思っています。

思い出の詰まった大切な我が家です。